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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5365号 判決 1997年5月29日

大阪市此花区常吉一丁目一番六〇号

原告

サンテスト株式会社

右代表者代表取締役

京和泉令三

右訴訟代理人弁護士

木下洋平

大阪府吹田市広芝町一五番三二号

被告

株式会社ノーケン

右代表者代表取締役

長島寛

右訴訟代理人弁護士

北山陽一

右同

森信静治

主文

一  被告は、原告に対し、金三八四万八〇四七円及びこれに対する平成七年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、金五九一万〇一三五円及びこれに対する平成七年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の権利

(一) 原告は、左記の特許権を有している(争いがない。その特許発明を「本件発明」という。)。

登録番号 特許第一六九〇六〇六号

発明の名称 変位検出装置

出願日 昭和五九年一月七日(特願平一-二四四六七七号)

出願公告日 平成三年七月一七日(特公平三-四六七六三号)

登録日 平成四年八月二七日

特許請求の範囲

「磁歪線に電流パルスを流し、磁歪線に沿って移動可能な永久磁石の近接する磁歪線の部位で捩り歪を発生させ、磁歪線の特定部位までの捩り歪の伝播時間を計測することにより、永久磁石に与えられる機械的変位を検出する変位検出装置において、

磁歪線の外周を非磁性でかつ導電性の中筒で取り囲み、該中筒の軸心部に磁歪線を張力をもたせて保持する一方、電流パルス供給用導線を磁歪線の一端部に接続し、電流パルス帰還用導線を中筒の一端部に接続するとともに、磁歪線の他端部と中筒の他端部とを電気的に接続し、中筒の外周を非磁性でかつ導電性の外筒によって電気的に絶縁して取り囲み、この外筒の外周に永久磁石を軸方向移動自在に配置したことを特徴とする変位検出装置。」(別添特許公報参照)

(二) 本件発明の特許請求の範囲は、次のとおり分説するのが相当と認められる(甲第二号証)。

(1) 磁歪線に電流パルスを流し、磁歪線に沿って移動可能な永久磁石の近接する磁歪線の部位で捩り歪を発生させ、磁歪線の特定部位までの捩り歪の伝播時間を計測することにより、永久磁石に与えられる機械的変位を検出する変位検出装置において、

(2) 磁歪線の外周を非磁性でかつ導電性の中筒で取り囲み、該中筒の軸心部に磁歪線を張力をもたせて保持する一方、

(3) 電流パルス供給用導線を磁歪線の一端部に接続し、電流パルス帰還用導線を中筒の一端部に接続するとともに、磁歪線の他端部と中筒の他端部とを電気的に接続し、

(4) 中筒の外周を非磁性でかつ導電性の外筒によって電気的に絶縁して取り囲み、

(5) この外筒の外周に永久磁石を軸方向移動自在に配置したこと

を特徴とする変位検出装置。

(三) 本件発明の作用効果について、本件発明の願書に添付した明細書には、次のとおり記載されている(別添特許公報6欄14行~29行)。

(1) 磁歪線の外周を取り囲む磁歪線保持用の中筒が電流パルスのもどり線を兼用したので、もどり用導線を別途設ける必要がなくなり、構造を簡素化でき製造が容易となるとともに、もどり線と磁歪線とが干渉する恐れが全くない。

(2) 従来のような細いリード線をもどり線として使用した場合に比べ電流パルスの損失が少なくなるので、効率良く電流パルスを発生させることができる。

(3) 中筒の外側を外筒で電気的に絶縁して覆っているので、中筒を流れた電流パルスが外部に漏れ出る恐れがなく、他の回路に悪影響を及ぼす恐れがない。

(4) 外筒によって外部の電気的ノイズから中筒が保護されるので、不要な波形が検出される恐れがなく、精密な変位検出が可能となる。

2  被告の行為(争いがない。)

被告は、別紙物件目録記載のレベル計(以下「被告製品」という。)を本件発明の出願公告日である平成三年七月一七日から平成四年八月二四日までの間に合計八八台製造、販売し、九三五万四八一〇円の売上げを得た。

二  原告の請求

原告は、被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると主張して、出願公告に基づくいわゆる仮保護の権利(平成六年法律第一一六号による改正前の特許法五二条)の侵害を理由に、被告による被告製品の製造販売により原告が被った損害の賠償として五九一万〇一三五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  被告の権利侵害の自白及び争点

被告は、被告製品の別紙物件目録記載の構成<1>ないし<5>が本件発明の構成要件(1)ないし(5)をそれぞれ充足し、被告製品は本件発明の技術的範囲に属すること、したがって、被告は被告製品の製造販売により、仮保護の権利の侵害を理由に原告に対し損害賠償義務を負うものであることを認めるものであり、被告製品の製造販売台数、売上高についても当事者間に争いがなく、もっぱら被告が原告に対して支払うべき損害賠償の額について、後記四のとおり争いがある。

四  争点に関する当事者の主張

【原告の主張】

1 被告が被告製品を製造、販売したことによって原告の被った損害の額は、次の(一)及び(二)の合計五九一万〇一三五円である。

(一) 被告製品の製造販売自体による損害 四六七万七四〇五円

(1) 製造、販売された本件発明の実施品は、原告の製造、販売した実施品(以下「原告製品」という。)のほかには被告製品があるだけであるから、原告は、被告が被告製品を製造、販売したことにより、その分だけ原告製品の販路を奪われたことになる。原告が原告製品を製造、販売した場合における利益率は五割を下らないから、原告は、被告製品の製造販売により、その売上高九三五万四八一〇円の五割に当たる四六七万七四〇五円の得られたはずの利益を失い、同額の損害を被った。

(2) 仮に、右(1)の主張が認められないとしても、被告が被告製品を製造、販売した場合における利益率も売上高の五割を下らないから、被告は被告製品の製造販売によりその売上高九三五万四八一〇円の五割に当たる四六七万七四〇五円の利益を得たところ、特許法一〇二条一項(前記改正前の特許法五二条二項による準用)により、同額が被告の行為により原告の受けた損害の額と推定される。

ここで、特許法一〇二条一項にいう侵害者が侵害行為により受けた「利益」を算出するに際して控除される経費は、侵害品の製造に直接必要であった原材料費のほか、侵害品の製造販売のために直接必要であった経費(特許権者において当該侵害品を製造、販売したとするならば追加出捐せざるをえない経費)に限られるべきであり、全社的にかかった経費の控除を認めるべきではない。被告主張の販売費及び一般管理費は、侵害行為たる被告製品の製造販売の有無にかかわらず、いずれにせよ支出される経費であるし、特に、本件の場合、乙第五号証(被告従業員作成の報告書)によれば、被告の全売上高約三六億八七一七万円(製品売上高約二五億二二九七万円+商品売上高約一一億六四二〇万円)に占める被告製品の売上高の割合が約〇・二五%にすぎないことからしても、被告製品の製造販売とは直接関係がなく、その製造販売をしていなくても支出された経費であることは明白であるから、控除されるべきではない。組立費・設計費及び製造経費も、その実体は右販売費及び一般管理費と同じことであり、被告製品の製造の有無にかかわらず、被告が製造する全製品についてかかった経費であるし、特に、本件の場合、右乙第五号証によれば、被告の全製品売上高約二五億二二九七万円に占める被告製品の売上高の割合が約〇・三七%にすぎないことからしても、被告製品の製造とは直接関係がなく、その製造をしていなくても支出された経費であることは明白であるから、控除されるべきではない。そうすると、前記「利益」の算出に当たって控除することができるのは部品原価である二六五万六九九九円(被告製品の売上高の約二八・四%)のみであるから、利益率は約七二%となり優に五割を超える。仮に組立費・設計費一〇七万四七七〇円及び製造経費七二万九六七五円の計一八〇万四四四五円(被告製品の売上高の約一九・三%)の控除をも認めたとしても、利益率は約五二%であって五割を超えることに変わりはない。

(3) 右のように、特許法一〇二条一項にいう「利益」の算定に当たっては、粗利益説によるべきであり、従来の純利益説は誤りである。「侵害行為にもかかわらず、n個の製品の製造販売に成功した特許権者を措定する。話を簡単にするために、侵害により逸失した売上げ数は1個であったと仮定しよう。この場合、特許権者に賠償されるべき逸失利益は、特許権者がこの製品を製造販売したとすれば得られたはずの利益であるから、n+1個目の製品を製造販売したと想定した場合の利益額となる。この利益額を算定するに当たっては、n+1個目の製品を製造販売するためのみに要する費用を控除することになる。ところで、費用には、製品の製造販売個数によって変動する費用と、変動しない費用がある。地代や家賃、さらには一般管理費の多くのものは、製品をn個製造販売しようが、n+1個製造販売しようが、支出額に全く変動がない場合がある。これを固定費用と名付けよう。もし、逸失利益の算定に当たって、これらの固定費用をn+1個目の製品に関しても割り付けて利益額から控除してしまうと、特許権者がn+1個目を製造販売したとすれば得られたはずの利益額よりも、控除分だけ過少な額を算定してしまうことになる。したがって、逸失利益の算定に当たって、n+1個目の製品に関する固定費用を控除することは許されない。」(田村善之「知的財産権と損害賠償」二三八頁、二三九頁)

(二) 弁護士費用 一二三万二七三〇円

(1) 原告は、平成四年七月から、被告との間で被告製品の製造販売の中止及び損害賠償に関する交渉を行ったが、その際、交渉を弁護士に依頼し、報酬二八万円及び実費一万〇七三〇円の合計二九万〇七三〇円を支払った。

また、本件訴えの提起に当たり、弁護士に対し、着手金として四七万一〇〇〇円を支払い、勝訴の場合には同額の謝金を支払う旨約した。

以上の合計一二三万二七三〇円は、被告による侵害行為と相当因果関係にある損害である。

(2) 被告は、本件訴訟は不当訴訟というべきものであり、弁護士費用を損害としてその賠償を求めることはできない旨主張するが、本件訴訟提起前に、被告が原告に対し申し入れた損害賠償金は、出願公告の前後を問わず、総額で二〇〇万円にすぎないから、このような過少な金額で和解が成立するはずがなく、やむをえず本件訴訟の提起に至ったのである(本件発明の出願公告前における被告製品の売上高は出願公告後における売上高九三五万四八一〇円よりはるかに多い二四四六万円強であるところ、出願公告前の製造販売については、被告が直接責任を負わないとしても、購入者が業として使用する段階で仮保護の権利あるいは特許権の侵害の問題が生じるから、購入者による使用を合法化するために結局被告が責任を負わなければならない筋合いである。)。

2(一) 本件発明は、前記一1(二)のような構成要件を備える変位検出装置全体について新規性、進歩性があると認められて特許されているものであり、同(三)記載の作用効果を奏するものである。

(二) 被告は、本件発明の各構成要件について、出願前公知の技術であるとし、そのことが被告が賠償すべき損害の額に影響があるかのように主張するが、出願前公知の技術の存在は、発明の技術的範囲の解釈や実施料相当額の損害の算定には意味があるかもしれないが、原告が特許法一〇二条一項の適用を主張する場合には意味がない。

(三) 被告は、本件発明は経済的技術的な意味が小さいか、かえって逆効果である部分が多い旨主張するが、被告が原告に無断で本件発明を実施した被告製品を製造、販売したこと自体が、本件発明に経済的技術的意味があることを示しているのである。

また、本件発明の作用効果について被告が述べるところは、損害額の算定とは何ら関係がない。

【被告の主張】

1 被告製品の製造販売によって原告の被った損害額についての主張は、すべて争う。

(一) 次の(1)のとおり本件発明の新規性は本件発明の構成要件の中の一部のみに認められるのであり、構成要件の大部分が公知技術であること、(2)のとおり本件発明は経済的技術的な意味が小さいか、かえって逆効果である部分が多いことからすれば、被告製品を製造、販売することにより得た利益と公知技術によって製造しうる同種の代替品を販売することにより得られる利益との差額をもって原告の損害とすべきであり、その額は微々たるものである。なお、被告が本件発明の実施品たる被告製品を製造、販売したのは、本件発明の構成要件の大部分が公知技術であったからにすぎない。

(1) 本件発明の構成要件のうち、(1)、(4)及び(5)は出願前公知の技術であり、構成要件(3)の「電流パルス供給用導線を磁歪線の一端部に接続し、電流パルス帰還用導線を中筒の一端部に接続するとともに、磁歪線の他端部と中筒の他端部とを電気的に接続し」という点のみに新規性が認められ、構成要件(2)の「磁歪線の外周を非磁性でかつ導電性の中筒で取り囲み、該中筒の軸心部に磁歪線を張力をもたせて保持する」という点は、特に新規性を有するものではなく、構成要件(3)に付帯することで意味があるものである。

(2) 原告が本件発明の作用効果として主張する前記一1(三)の点は、次の(1)ないし(3)のとおり経済的技術的に意味が小さいか、かえって逆効果である部分が多い。

<1> 磁歪線の外周を取り囲む磁歪線保持用の中筒が電流パルスのもどり線を兼用したので、もどり用導線を別途設ける必要がなくなり、構造を簡素化でき製造が容易となるとともに、もどり線と磁歪線とが干渉する恐れが全くないとの点について

確かに本件発明ではもどり線を必要としなくなるが、そもそももどり線に使用される導線の単価は一メートル当たり七円程度であり、原価に与える影響は微々たるものである。構造の簡素化という点については、中筒をもどり線と兼用することにより、中筒の表面全体を絶縁処理する作業が必要となるので、かえってコスト高となる。また、中筒を電流帰還路として使用することにより、磁歪線と中筒、中筒と電流帰還路用導線を電気的に接続する必要が生じるので、構造が複雑化し、製造工程数も増加する上、接続箇所の増加が故障の原因となり機器の信頼性を低下させる原因となる。更に、もともともどり線は慣用的に中筒と外筒の間に装着されていたために物理的な干渉はなかったものが、もどり線と中筒を兼用すると、かえって磁歪線と中筒との電気的遮断がなくなるので干渉を受けることになる。

<2> 従来のような細いリード線をもどり線として使用した場合に比べ電流パルスの損失が少なくなるので、効率良く電流パルスを発生させることができるとの点について

変位検出装置のような高周波を扱う電気機器においては、もどり線には、単線ではなく細い導線を集めた撚り線を使用するのが通常であり、撚り線は単線に比べて表面積が広く中筒と大差がないので、中筒をもどり線兼用としたことにより、特に電流パルスの損失が少なくなるということはない。また、従前、もどり線には導電性の良い銅が使用されていたが、中筒に銅を使用するのでは柔らかすぎるので、アルミニウムやステンレスが使用されるところ、これらの材料は電気抵抗が大きく、電流パルスの損失が大きくなるし、それを回避するために表面を銀メッキ処理すると、もどり線を使用する場合よりもコスト高になる。更に、中筒の表面の酸化や腐食により電流パルスが流れにくくなることを防止するために、表面に特殊な酸化・腐食処理をする必要があるので、もどり線を使用する場合よりもコスト高になる。その上、そもそも銅製のもどり線における電流パルス損失率を一とすると、磁歪線に使用されるニッケル合金材の電流パルス損失率は約六〇であるから、もどり線における電流パルス損失率を多少改善しても効果はない。

<3> 中筒の外側を外筒で電気的に絶縁して覆っているので、中筒を流れた電流パルスが外部に漏れ出る恐れがなく、他の回路に悪影響を及ぼす恐れがないとの点、及び外筒によって外部の電気的ノイズから中筒が保護されるので、不要な波形が検出される恐れがなく、精密な変位検出が可能となるとの点について

いずれも外筒による効果であって、もどり線を中筒と兼用することによる効果ではない。内部回路で発生した電気ノイズを外筒で遮断する技術は、米国特許第三八九八五五五号(AUG五一九七五)にみられるように出願前公知の技術である。

(二) 仮に原告主張の特許法一〇二条一項によって損害額を算定しても、被告が被告製品の製造販売によって得た利益は、一九五万九八二六円にすぎず、更にそのうち本件発明が寄与している部分は微々たるものにすぎない。

(1) 被告製品の製造原価は四四六万一四四四円(部品原価二六五万六九九九円+組立費・設計費一〇七万四七七〇円+製造経費七二万九六七五円)、販売費及び一般管理費は三六二万〇三一一円であるから、被告製品を製造、販売することにより被告が得た利益は、売上高九三五万四八一〇円から右経費の合計八〇八万一七五五円を差し引いた一二七万三〇五五円である。そして、発明に関係のない販売利益まで侵害行為により権利者が受けた損害として填補を求める根拠は見出し難く、製品全体の利益に対する発明にかかる部分の貢献度・寄与度を考慮して特許法一〇二条一項にいう「利益の額」を算定するのが相当であるところ、前記(一)の(1)及び(2)の点に加えて、被告が被告製品を販売するに際して本件発明については全く触れていないことからすれば、本件発明の寄与度は微々たるものにすぎず、零とみなしてもよいぐらいである。

(2) 原告は、特許法一〇二条一項にいう「利益」を算出するに際して控除される経費は侵害品の製造販売のために直接必要であった経費に限られるべきであり、販売費及び一般管理費などのような全社的にかかった経費の控除を認めるべきではない旨主張するが、同条項は、侵害者の利益を特許権者の損害と推定する規定であり、侵害者が侵害行為をするについて販売費及び一般管理費などの諸経費を支出していることは明らかであるから、右「利益」は諸経費を控除した純利益であるべきである。

(3) また、仮に原告主張のように粗利益によるとしても、本件の場合、本件発明の寄与率は微々たるものであるから、粗利益に寄与率を乗じると、結局損害として推定される金額は純利益をはるかに下回ることになる。

2 被告は、本件訴訟前から、被告製品が本件発明についての仮保護の権利を侵害するものであることを認め、原告に対して損害賠償金として二〇〇万円を支払う旨原告代理人弁護士に回答していたにもかかわらず、原告は本件訴訟を提起したのであるから、被告製品が右仮保護の権利を侵害するものであるということだけで直ちに弁護士費用まで損害としてその賠償請求が認められるべきものではない。本件訴訟前に被告が提示した二〇〇万円という額は、販売利益に占める本件発明の寄与率が極端に低いことからみて損害賠償金として合理的な額であるから、本件訴訟は不当訴訟というべきものであり、弁護士費用を損害としてその賠償を求めることはできない。

第三  争点に対する当裁判所の判断

一1  まず、原告は、製造、販売された本件発明の実施品は、原告製品のほかには被告製品があるだけであるから、原告は被告が被告製品を製造、販売したことによりその分だけ原告製品の販路を奪われたことになると主張し、原告が原告製品を製造、販売した場合における利益率は五割を下らないから、原告は、被告製品の製造販売によりその売上高九三五万四八一〇円の五割に当たる四六七万七四〇五円の得られたはずの利益を失い、同額の損害を被ったと主張するが、仮に製造、販売された本件発明の実施品が原告製品のほかには被告製品があるだけであるとしても、そのことだけでは被告製品が製造、販売されていなければその分だけ原告製品が購入(販売)されたであろうということはできず、他にかかる事実を認めるに足りる証拠がない(原告が原告製品を製造、販売した場合における利益率が五割を下らないとの事実も、これを認めるに足りる証拠はない。)から、右主張は採用することができない。

2  次に、原告は、特許法一〇二条一項の適用(前記改正前の特許法五二条二項による準用)を主張し、被告が被告製品を製造、販売した場合における利益率も売上高の五割を下らないから、被告は被告製品の製造販売によりその売上高九三五万四八一〇円の五割に当たる四六七万七四〇五円の利益を得たと主張するが、被告が被告製品を製造、販売した場合における利益率が売上高の五割を下らないとの事実を認めるに足りる証拠はない(前記のとおり、そもそも原告が原告製品を製造、販売した場合における利益率が五割を下らないとの事実も、これを認めるに足りる証拠はない。)。

原告は、特許法一〇二条一項にいう侵害者が侵害行為により受けた「利益」を算出するに際して控除される経費は、侵害品の製造に直接必要であった原材料費のほか、侵害品の製造販売のために直接必要であった経費(特許権者において当該侵害品を製造、販売したとするならば追加出捐せざるをえない経費)に限られるべきであり、全社的にかかった経費の控除を認めるべきではないところ、販売費及び一般管理費は、侵害行為たる被告製品の製造販売の有無にかかわらず、いずれにせよ支出される経費であるし、特に被告の全売上高に占める被告製品の売上高の割合が約〇・二五%にすぎないことからしても、被告製品の製造販売とは直接関係がなく、その製造販売をしていなくても支出された経費であることは明白であり、組立費・設計費及び製造経費も、被告製品の製造の有無にかかわらず被告が製造する全製品についてかかった経費であるし、特に被告の全製品売上高に占める被告製品の売上高の割合が約〇・三七%にすぎないことからしても、被告製品の製造とは直接関係がなく、その製造をしていなくても支出された経費であることは明白であるから、いずれも控除されるべきではない旨主張する。しかしながら、特許法一〇二条一項は、特許権者が侵害行為により受けた損害の額を直接立証することが容易でないことから、特許権者の保護のために侵害者が侵害行為により受けた利益の額をもって特許権者の受けた損害の額と推定する規定であり、具体的な金額の認定は別として、侵害者が侵害品の製造販売により利益を得るためには右のような販売費及び一般管理費、製造経費の支出も避けられないのであるから(なお、組立費・設計費は、原告がいうところの侵害品の製造のために直接必要であった経費である。)、特段の事情のない限り、同条同項により特許権者の受けた損害の額と推定される、侵害者が侵害行為により受けた利益の額とは、侵害品の売上高から、右のような販売費及び一般管理費、製造経費をも控除したいわゆる純利益をいうと解するのが相当である(但し、このように解することと、販売費及び一般管理費、製造経費の額の主張立証責任の所在をどのように解するかとは、別問題である。)。原告は、そのいわゆる粗利益説を採用すべきであるとする根拠について、侵害行為にもかかわらずn個の製品の製造販売に成功した特許権者が侵害行為により逸失した売上げ数が一個であると仮定した場合、特許権者に賠償されるべき逸失利益は、特許権者がこのn+一個目の製品を製造、販売したとすれば得られたはずの利益であり、その利益額の算定に当たってはn+一個目の製品を製造、販売するためのみに要する費用を控除することになるところ、地代や家賃、一般管理費の多くのものは製品をn個製造、販売しようがn+一個製造、販売しようが額に全く変動がないため、これらの固定費用をn+一個目の製品にも割り付けて利益額から控除すると、特許権者がn+一個目の製品を製造、販売したとすれば得られたはずの利益額より控除分だけ過少に算定してしまうことになるから、n+一個目の製品に関する固定費用を控除することは許されない旨主張するが、特許権者が侵害行為により逸失した売上げ数が一個であると仮定した場合に特許権者に賠償されるべき逸失利益は特許権者がこのn+一個目の製品を製造、販売したとすれば得られたはずの利益であるとすることは、被告製品が製造、販売されていなければその分だけ原告製品が購入(販売)されたであろうとの事実を前提とするものであるところ、前記のとおりかかる事実を認めるに足りる証拠がないから、右主張は前提を欠くものである。

一方、被告は、本件発明の新規性は本件発明の構成要件の中の一部のみに認められるのであり、構成要件の大部分が公知技術であること、本件発明は経済的技術的な意味が小さいか、かえって逆効果である部分が多いことからすれば、被告製品を製造、販売することにより得た利益と公知技術によって製造しうる同種の代替品を販売することにより得られる利益との差額をもって原告の損害とすべきであり、その額は微々たるものであると主張するが、独自の見解であり、到底採用することができない。

3  右説示の考え方に基づき、被告が被告製品の製造販売により受けた利益の額を算定する。

被告製品の製造販売台数が合計八八台で、その売上高が九三五万四八一〇円であることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

一方、乙第五号証(被告従業員作成の報告書)によれば、被告製品の製造販売期間と概ね一致する平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの期間(第二七期)における被告の全売上高は、全製品売上高二五億二二九七万六五一六円と全商品売上高一一億六四二〇万一二七二円との合計三六億八七一七万七七八八円であること、右期間における製造経費は一億九六八三万五一七六円、販売費及び一般管理費は一四億二七六八万三三五〇円であること、被告製品の部品原価は二六五万六九九九円、組立費・設計費は一〇七万四七七〇円であることが認められ、製造経費一億九六八三万五一七六円が全製品売上高二五億二二九七万六五一六円に占める比率(製造経費比率)は七・八%、販売費及び一般管理費一四億二七六八万三三五〇円が全売上高三六億八七一七万七七八八円に占める比率(販売管理費比率)は三八・七%ということになる。

そこで、前記被告製品の売上高九三五万四八一〇円から控除すべき経費を検討するに、部品原価及び設計費・組立費は、被告製品の製造に直接必要な経費として支出されたものであるから(原告は、組立費・設計費についても、被告製品の製造販売の有無にかかわらず被告が製造する全製品についてかかった経費であると主張するが、採用できない。)、これを全額控除するのが相当と認められるが、製造経費、販売費及び一般管理費は、一個一個の製品の製造、販売に直接必要な金額が対応しているものではなく、被告の会社全体として支出されたものであり、本件においては、被告製品の売上高九三五万四八一〇円が、全製品売上高二五億二二九七万六五一六円に占める割合はわずか〇・三七%にすぎず、全売上高三六億八七一七万七七八八円に占める割合はわずか〇・二五%にすぎないことを考えると、製造経費、販売費及び一般管理費については、被告製品の売上高九三五万四八一〇円にそれぞれ前記製造経費比率七・八%、販売管理費比率三八・七%を乗じた七二万九六七五円、三六二万〇三一一円の各二分の一である三六万四八三八円、一八一万〇一五六円の限度で被告製品の製造販売のために支出されたものとして控除するのが相当と認められる。これに反する被告の主張は採用することができない。

したがって、被告は、被告製品の製造販売により、被告製品の売上高九三五万四八一〇円から、部品原価二六五万六九九九円、組立費・設計費一〇七万四七七〇円、製造経費三六万四八三八円、販売費及び一般管理費一八一万〇一五六円の合計五九〇万六七六三円を控除した三四四万八〇四七円の利益を受けたものと認められ、原告は同額の損害を被ったものと推定されることになる。

4  被告は、更に、発明に関係のない販売利益まで侵害行為により権利者が受けた損害として填補を求める根拠は見出し難く、製品全体の利益に対する発明にかかる部分の貢献度・寄与度を考慮して特許法一〇二条一項にいう「利益の額」を算定するのが相当であるところ、前記のとおり、本件発明の新規性は本件発明の構成要件の中の一部のみに認められるのであり、構成要件の大部分が公知技術であること、本件発明は経済的技術的な意味が小さいか、かえって逆効果である部分が多いことに加えて、被告が被告製品を販売するに際して本件発明については全く触れていないことからすれば、本件発明の寄与度は微々たるものにすぎず、零とみなしてもよいぐらいである旨主張する。しかし、およそ発明は、その一部の構成要件のみが新規であることが通常であり、発明を構成要件に分解した場合に構成要件のすべてが新規であるというようなことは皆無であるといっても過言ではないのであって、かかる新規な構成要件とその他の構成要件とを一体的、有機的に結合したところに発明の新規性、進歩性が認められて登録されるのであるから(各構成要件自体は、それぞれすべて公知の技術である場合でも、これらの公知技術を組み合わせること自体に進歩性が認められて登録されることもある。)、本件発明の新規性が構成要件の中の一部のみに認められるとしても、それはむしろ当然ともいうべきことであり、その他本件発明の作用効果等に関連して述べる点を検討しても、前記認定の純利益額について更に被告主張の貢献度・寄与率を考慮すべきであるということはできず、右被告の主張は採用することができない。

二  次に、原告が弁護士費用を被告製品の製造販売による損害としてその賠償を求めるのに対し、被告は、本件訴訟前から被告製品が本件発明についての仮保護の権利を侵害するものであることを認め、原告に対して損害賠償金として二〇〇万円を支払う旨原告代理人弁護士に回答していたにもかかわらず、原告は本件訴訟を提起したのであり、右二〇〇万円という額は販売利益に占める本件発明の寄与率が極端に低いことからみて損害賠償金として合理的な額であるから、本件訴訟は不当訴訟というべきものであり、弁護士費用を損害としてその賠償を求めることはできない旨主張する。

しかしながら、訴訟前の交渉段階において侵害者から和解金の提示を受けた場合でも、その提示の仕方が、侵害品の製造販売台数、売上高、部品原価、製造経費、販売費及び一般管理費等、被告が本件訴訟において乙第五号証により明らかにしたような事項を証拠とともに示した上での提示であって、かつ、その提示金額が訴訟における認容額とほぼ一致するというような特段の事情でもあれば格別、そうでない限り、権利者が右和解に応じないからといって直ちに訴訟の提起が不当訴訟となったり、弁護士費用を損害としてその賠償を求められないといういわれはないところ、本件訴訟における認容額は前記のとおりであり、右のような特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、原告は、被告製品の製造販売という不法行為と相当因果関係にある範囲内の弁護士費用を損害としてその賠償を求めることができるものといわなければならない。

そして、甲第三ないし第一一号証によれば、原告は、原告訴訟代理人弁護士に対して、本件訴訟の提起前に、被告に対して被告製品の製造販売の中止及び損害賠償を求める交渉を依頼し、本件訴訟の提起に当たり、訴訟の追行を委任し、着手金及び成功報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟における認容額、訴訟の難易度、その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すれば、被告製品の製造販売という不法行為と相当因果関係にある弁護士費用の損害は四〇万円と認めるのが相当である。

三  以上のとおりであるから、被告が原告に対し支払うべき損害賠償の額は、前記一3の三四四万八〇四七円と右二の四〇万円との合計額である三八四万八〇四七円ということになる。

第四  結論

よって、原告の請求は三八四万八〇四七円の限度で理由があるから認容し、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

物件目録

次の構成のレベル計。

(構成)

<1> 磁歪線8に電流パルスを流し、磁歪線8に沿って移動可能な永久磁石4aの接近する磁歪線8の部位で捩り歪を発生させ、磁歪線8の特定部位までの捩り歪の伝播時間を計測することにより、永久磁石4aに与えられる機械的変位を検出するレベル計であって、

<2> 磁歪線8の外周を非磁性でかつ導電性の中筒6で取り囲み、該中筒6の軸心部に磁歪線8を張力をもたせて保持する一方、

<3> 電流パルス供給用導線11を磁歪線8の一端部に接続し、電流パルス帰還用導線29を中筒6の一端部に接続するとともに、磁歪線8の他端部と中筒6の他端部とを電気的に接続し、

<4> 中筒6の外周を非磁性でかつ導電性の外筒3によって電気的に絶縁して取り囲み、

<5> この外筒3の外周に永久磁石4aを軸方向移動自在に配置している。

(図面の説明)

第1図は、レベル計の正面図であり、磁歪線に沿った断面図である。

第2図は、第1図においてX-X断面図である。

(符号の説明)

3 外筒

4a 永久磁石

6 中筒

8 磁歪線

11 電流パルス供給用導線

29 電流パルス帰還用導線

第1図

<省略>

第2図

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 平3-46763

<51>Int.Cl.5G 01 D 5/48 識別記号 A 庁内整理番号 7269-2F <24><44>公告 平成3年(1991)7月17日

発明の数 1

<54>発明の名称 変位検出装置

<21>特願 平1-244677 <55>公開 平2-124424

<22>出願 昭59(1984)11月7日 <43>平2(1990)5月11日

<52>特願 昭59-234735の分割

<72>発明者 京和泉宏三 大阪府大阪市中央区道修町1丁目4番8号 三京貿易株式会社内

<71>出願人 三京貿易株式会社 大阪府大阪市此花区常吉1丁目1番60号

<74>代理人 弁理士 筒井秀隆

審査官 古寺昌三

<56>参考文献 特開 昭58-85104(JP、A) 特開 昭54-86366(JP、A)

特開 昭52-57845(JP、A)

<57>特許請求の範囲

1 磁歪線に電流パルスを流し、磁歪線に沿つて移動可能な永久磁石の近接する磁歪線の部位で捩り歪を発生させ、磁歪線の特定部位までの捩り歪の伝播時間を計測することにより、永久磁石に与えられる機械的変位を検出する変位検出装置において、

磁歪線の外周を非磁性でかつ導電性の中筒で取り囲み、該中筒の軸心部に磁歪線を張力をもたせて保持する一方、電流パルス供給用導線を磁歪線の一端部に接続し、電流パルス帰還用導線を中筒の一端部に接続するとともに、磁歪線の他端部と中筒の他端部とを電気的に接続し、中筒の外周を非磁性でかつ導電性の外筒によつて電気的に絶縁して取り囲み、この外筒の外周に永久磁石を軸方向移動自在に配置したことを特徴とする変位検出装置。

発明の詳細な説明

〔産業上の利用分野〕

本発明は磁歪現象を用いて物体の機械的変位や液面の変位などを検出する変位検出装置に関するものである。

〔従来の技術〕

従来、物体の機械的変位や液面の変位などを検出する変位検出装置としては差動変圧器やボテンシヨメータ、静電容量式変位検出器など種々のものが知られており、その中でも磁歪現象を応用した変位検出器が特に線形性、分解能に優れている。

この種の磁歪式変位検出装置として、米国特許第3898555号公報に記載のように、円管状の磁歪管の中心に導線を挿通するとともに、磁歪管の外側に移動可能な永久磁石を配置したものが知られている。そして、導線に電流パルスを流すことにより永久磁石の近接する磁歪管の近接する部位で捩り歪を発生させ、この捩り歪を磁歪管の一端部に設けた歪検出装置で電気信号に変換し、捩り歪の伝播時間を計測することにより永久磁石に与えられる機械的変位を検出している。

〔発明が解決しようとする課題〕

この種の磁歪式変位検出装置の場合、導線に流した電流パルスが外部に漏れると、回路に重大が悪影響を及ぼすため、電流パルスのもどり線を必ず設ける必要がある。前述の変位検出装置の場合には、電流パルスのもどり線を磁歪管の外側に平行に配線している。ところが、十分な有効測定長を確保するために磁歪管を長くすると、もどり線を長くしなければならず、磁歪管と干渉せずに配線するのは非常に難しい。

また、この種の変位検出装置は機械の内部や液中等の電気的ノイズの存在する部位で用いられることが多く、このような外部の電気的ノイズが磁歪管に加わると、検出波形に乱れが出ることになり、精密な変位検出ができないという問題もある。

そこで、本発明の目的は、上記の問題点を解消した変位検出装置を提供することにある。

〔課題を解決するための手段〕

上記目的を達成するために、本発明は、磁歪線に電流パルスを流し、磁歪線に沿つて移動可能な永久磁石の近接する磁歪線の部位で捩り歪を発生させ、磁歪線の特定部位までの捩り歪の伝播時間を計測することにより、永久磁石に与えられる機械的変位を検出する変位検出装置において、磁歪線の外周を非磁性でかつ導電性の中筒で取り囲み、該中筒の軸心部に磁歪線を張力をもたせて保持する一方、電流パルス供給用導線を磁歪線の一端部に接続し、電流パルス帰還用導線を中筒の一端部に接続するとともに、磁歪線の他端部と中筒の他端部とを電気的に接続し、中筒の外周を非磁性でかつ導電性の外筒によつて電気的に絶縁して取り囲み、この外筒の外周に永久磁石を軸方向移動自在に配置したものである。

〔作用〕

磁歪線の外周を取り囲む磁歪線保持用の中筒を導電体で構成し、この中筒を電流パルスのもどり線として兼用したので、もどり線を別に配線する必要がない。特に、磁歪線は中筒の軸心部に保持されているため、外部から振動等を受けても中筒と磁歪線とが接触するおそれは全くなく、断線等の心配もない。この点は、測定長の長い変位検出装置の場合に極めて有効である。

もどり線を兼ねる中筒の一端は電流パルス帰還用導線を介してパルス発生回路へ接続される。このとき、外筒と中筒とは電気的に絶縁されているので、磁歪線を流れた電流パルスが外筒へ漏れ出るおそれがなく、他の回路への悪影響を防止できる。また、外部の機械類等の電気的ノイズに対して中筒は外筒によつて電気的に保護されるので、不要信号が検出されることがない。なお、中筒および外筒は共に非磁性体よりなるので、永久磁石の磁歪線に対する磁束が阻害されない。

電流パルスは時間的変化の大きい高周波電流であるから、導体の表面を流れるという性質がある。そのため、従来のような細いリード線を電流パルスのもどり線として用いた場合には、その表面積が小さく、電流パルスの損失が大きいという欠点がある。これに対し、本発明ではもどり線が中空パイプであるから、表面積が従来に比べて格段に大きく、電流パルスの損失が小さい。そのため、効率よく捩り歪を発生させることができる。

〔実施例〕

第1図は本発明にかかる変位検出装置の具体例を示す。

図面において、磁歪線1は非磁性で導電性の中筒7の中に挿通され、この中筒7の両端部内部には中心を磁歪線1が貫通するゴムなどの弾性体8が組み込まれている。そして、磁歪線1に張力を持たせた後、中筒7の両端部を圧縮して絞り部9を形成することにより、磁歪線1と弾性体8とを同時に押圧し、磁歪線1は中筒7の軸心部に装備される。

上記絞り部9では弾性体8が磁歪線1の外周に密着するので、磁歪線1の両端まで伝播した超音波が弾性体8で効果的に吸収される。したがつて、永久磁石2で生じた捩り歪による超音波のみを、中筒7に形成した開口部25を経て歪検出装置4で検出することが可能となる。

磁歪線1の始端は電流パルス供給用導線12に接続され、後端は導線10によつて中筒7の右端に電気的に接続され、さらに中筒7の左端は電流パルス帰還用導線11に接続されている。そのため、多心ケーブル15により供給される電流パルスが磁歪線1に流れ、その後、導線10、中筒7、電流パルス帰還用導線11を経てパルス発生回路(図示せず)へ戻されてアースされる。

磁歪線1を装備した中筒7は非磁性の外筒17の中に挿入され、この外筒17と中筒との間に形成される環状空間に、例えばスポンジなどからなる振動吸収材23が配置されている。この振動吸収材23は、外筒17や、外筒17に溶接あるいは他の機械的方法で接合固定されたケース20などに作用する外部からの機械的な振動や衝撃を吸収、減衰させ、不必要な外乱が歪検出装置4で検出されないようにしている。

外筒17の右端にはエンドキヤップ18が圧入もしくは他の機械的方法で密封固定されており、例えば外筒17が液中にあつても、液体が外筒17の内部に浸入することなく、永久磁石2の位置を検出することが可能となる。

ケース20の左端にはケースカバー19が挿入固定され、このケースカバー19を貫通して多心ケーブル15がケース20内に導入されている。多心ケーブル15は磁歪線1への電流パルスの供給を行うとともに、歪検出装置4の検出信号を導線13、14を介して取り出すことができる。また、多心ケーブル15としてシールド線を使用すれば、シールド導線16をケース20の内面に電気的に接続し、ケース20および外筒17を磁歪線1および歪検出装置4の電気的シールドとして使用することもできる。

上記構成の変位検出装置は、変位を検出すべき機械などの固定部24にケース20のネジ部21を挿入してナツト22で締め付け固定し、機械などの可動部(図示せず)に永久磁石2を固定すれば容易に設置でき、機械などの可動部の変位を検出することができる。

なお、上記外筒17を省略し、中筒7で外筒17を兼用した場合には、外部の機械類等の電気的ノイズが中筒7に流れることがあり、電流パルス以外の電流が磁歪線に流れることになる。そのため、不要信号が歪検出装置4で検出されることになり、望ましくない。これに対し、上記のように中筒7の外側を電気的に絶縁した外筒17で覆えば、外部のノイズ電流は外筒17を流れるのみであり、中筒7は電気的に保護されるので、不要信号が検出されるおそれがない。

第2図は歪検出装置4の一例を示す。

左端に受信器の一例である圧電素子27が接着されたプローブ26は磁歪線1に対し角度をもつて接触しており、コ字形の押え金具29がゴム等の弾性体28を介して磁歪線1とプローブ26との接触を保持している。そして、押え金具29の左端部をネジ30で締め付けることにより、磁歪線1とプローブ26との接触をより確実なものとしている。

磁歪線1上の永久磁石2の近接する位置で生じた捩り歪がプローブ26と接触している磁歪線1の部分に到達すれば、この捩り歪31によつてプローブ26の軸方向に歪32が生じ、圧電素子27の両極板に接続された導線13、14間に歪32の大きさに応じた電気信号が得られる。このように、磁歪線1とプローブ26とが角度をもつて点接触しているので、プローブ26の接触による捩り歪の反射の影響を最少限にとどめることができ、高精度の検出が可能である。

〔発明の効果〕

以上の説明で明らかなように、本発明によれば、磁歪線の外周を取り囲む磁歪線保持用の中筒が電流パルスのもどり線を兼用したので、もどり用導線を別途設ける必要がなくなり、構造を簡素化でき製造が容易となるとともに、もどり線と磁歪線とが干渉する恐れが全くない。しかも、従来のような細いリード線をもどり線として使用した場合に比べ電流パルスの損失が少なくなるので、効率良く電流パルスを発生させることができる。

また、中筒の外側を外筒で電気的に絶縁して覆つているので、中筒を流れた電流パルスが外部に漏れ出るおそれがなく、他の回路に悪影響を及ぼすおそれがない。さらに、外筒によつて外部の電気的ノイズから中筒が保護されるので、不要な波形が検出されるおそれがなく、精密な変位検出が可能となる。

図面の簡単な説明

第1図は本発明にかかる変位検出装置の一実施例の断面図、第2図はその歪検出装置の磁歪線の軸方向から見た拡大断面図である。

1……磁歪線、2……永久磁石、4……歪検出装置、7……中筒、11……電流パルス帰還用導線、12……電流パルス供給用導線、17……外筒。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

特許公報

<省略>

<省略>

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